
基本の部屋以外の空間“ゆとりスペース”
皆さんは家を建てる際に間取りにおいて何を重視しますか?
- 「子ども部屋を二つ確保したい」
- 「家族団らんが楽しめる広めのリビングにしたい」
- 「寝室はテレビとダブルベッドが置ける8畳くらいの広さがいい」
など部屋の広さや用途についてはよくお考えになるかと思いますが、“それ以外の場所”についてのイメージはお持ちでしょうか? 部屋のことばかりに気を取られて他のスペースを考慮していないと、購入後に後悔してしまうケースも多々あります。
家族が生活を営む住まいはリビングや寝室、子ども部屋などの「基本の部屋」と、玄関やキッチン、収納部分などの「ゆとりスペース」の二つで構成されています。部屋の間取りなどを熱心に考えることは当然重要ですが、ゆとりスペースについてイメージを膨らませることも同様に重要なことなのです。
一般的に基本の部屋を1と考えた際に、ゆとりスペースは0.5~1の比率が望ましいといわれています。ゆとりのスペースが広いほど、生活に窮屈さを感じにくくなります。そのため、「部屋ではないので、スペース活用のためにも共有部分を削りたい」とお考えであっても過度にゆとりスペースを減らしてしまうと、住みにくい家になってしまうかもしれません。

注文住宅を建てるためには、建物の内外のかたちを導き出す設計を行う必要があります。ただし、最初から建物のかたちや部屋の配置が明確になっているわけではないため、“理想のご自宅”をさまざまな角度から考えていくうえでも、まずはシミュレーションをすることをおすすめします。
シミュレーションをするうえで頭に入れておきたいのが「ゾーン」の概念です。住まいを機能ごとに大まかなゾーンとして分け、スムーズで最適な設計に導くための作業を「ゾーニング」といいます。ゾーニングでは、それぞれのゾーンのつながりや、日照・通風・眺望など条件面のバランスを調整しつつ、複数の配置を検討していきます。基本的に専門家が行いますが、敷地の特徴や家に求める優先順位などがはっきりするので、ご自身でも考えてみると家の構造を整理しやすくなるでしょう。
ゾーニングをするうえで着目すべき点は、機能ごとのゾーンの分類です。部屋の機能によって大まかに下記の3つにカテゴライズできます。
【大まかな家のゾーンの区分け】
- 『パブリックゾーン』……家族全員が集まるリビングや居間などのスペース
- 『プライベートゾーン』……個人で使用する寝室や子供部屋などのスペース
- 『サービスゾーン』……生活に不可欠なトイレやキッチンなどのスペース
ゾーニングは上記の3つのゾーンが、複雑に入り交じらないように考えることが大切です。ゾーンが入り組むと動線が複雑になり、利便性が悪くなってしまいます。そうすると住みやすい快適な住まいとはいえなくなってしまいます。

優先すべきは家族が集まるパブリックゾーン
3つのゾーンの中で、まず優先して考えるべきなのがパブリックゾーンです。家族が触れ合う場所であり、なおかつ家の中で一番スペースが広いのは、リビングや居間といった共有スペースになるでしょう。パブリックゾーンの充実が家の良し悪しを左右し一家団欒を実現するきっかけになるといっても過言ではないので、各ゾーンへの動線も含めて時間をかけて考察すべきゾーンです。
たとえば、パブリックゾーンとプライベートゾーンを切り離した設計だと、家族の触れ合う場がつくられず、顔を見合わせる機会も減ってしまうかもしれません。一方でお子さんの将来の受験を想定するなど、家族間の個々のプライバシーを大切にしたいという家庭では、パブリックゾーンとある程度距離を持つことで、騒音などが聞こえないように配慮することもあります。
パブリックゾーンを中心に、ゾーンの間は適度な間隔を設けることが重要です。できれば3つのゾーンを不自由なく行き来でき、それぞれのゾーンの役割・機能も十分に果たしている家を実現できれば理想的であるといえます。

ゾーニングのポイントは敷地を含めることが重要
家の設計において重要なゾーニングですが、実は考慮すべき範囲は建物内部だけではありません。敷地を含めたゾーニングをすることが大切です。建物を敷地にどう配置し、どのような輪郭を持たせるのかという点は重点的に考えておくべきでしょう。
たとえば、日照や通風の状況、お隣の家や外の道路との関係、人や車の出入り、庭の配置などを併せて検討することで、設計の際により具体的なイメージを持つことができ、希望の内容と違う場合は設計士に直接イメージを共有することもできます。
家を建てる際に、細かな部屋な配置や広さの割合に目がいきがちな方が多いようですが、まずは大まかなゾーン分けをしてみるといいでしょう。そうすることでご自身が考える家のつくりの優先順位がはっきりとし、イメージを持ちやすくなります。さらに、そのゾーニングの作業が敷地を含めたものであると、注文住宅が完成した際に、要望通りのものができあがる可能性があがるでしょう。

間取り係数で住宅のゆとり度を導き出そう
ただ、正確な間取りが決まる前に基本の部屋やゆとりスペースの広さを正しく認識することは、かなり難しいといえます。そのため、目安を概算することが大切であり、その際「間取り係数」というのが用いられることがあります。
間取り係数は基本の部屋の面積とゆとりスペースの面積を足したもので、合計で1.5~2.0の数値で住宅内のバランスを考えます。基本の部屋の面積を1としたときにゆとりスペースを0.5~1の間に納めるのが基本であり、住宅のバランスをみた最適なゆとり度を導き出すための指標です。
間取りを考える際に活用したい間取り係数
たとえばリビング、寝室、子ども部屋、和室、書斎などの合計(基本の部屋)が1のときに、玄関、キッチン、トイレ、階段、お風呂、廊下、収納のトータル(ゆとりスペース)が1だったとしたら、住宅にかなりのゆとりがあるといえます。反対に基本の部屋が1にゆとりスペースが0.5だと共同スペースの割合が小さい家になり、ゆとり度が低くなります。
主に都心部などでは、住宅を建てる土地の広さが限定されていることも多く、延床面積が動かせない場合もあります。その場合は以下の式を活用し、基本の部屋の面積を導き出しましょう。基本の部屋に使える部屋数の広さや数を把握することによって、住宅計画を見直しすることもできます。
延床面積÷間取り係数=基本の部屋の面積
たとえば比較的に余裕のある1.9のゆとりスペースを確保したいとなれば、基本の部屋に利用できるスペースが少なくなります。その場合は、寝室を8畳から6畳に小さくしたり、二つつくる予定だった子ども部屋を一つにしたりするなどの案を再考することが必要です。まずは家族で部屋の広さやゆとりスペースがどの程度必要なのかをしっかり話し合うようにしましょう。
都内で売られている部屋の多さを売りにした建売住宅は、間取り係数を計測してみると1.6を下回ることがほとんどだそうです。家は部屋だけあれば成り立つわけではないので、ほどよいゆとりを保つことを意識するようにしましょう。せっかく建売住宅ではなく注文住宅を選ぶのであれば、ゆとりスペースこそ、その後の生活を想定したこだわりや工夫を加味されることが求められているのです。